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【ハンドクリームとの戦い】ある日、苦手なにおいがやってきた

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自分のにおいが気になる。

30を超えたあたりから、自分のにおいが気になるようになった。
といっても、今のところ異臭は放っていない。……はずだ。
なぜこんなことを言うのかというと、加齢臭は男の人っていうイメージがあるけれど、女の人にもある一定の加齢臭はあるんじゃないかと思っているからだ。
ひとまわり上の先輩も、30代半ばあたりのときには「とにかく自分が臭い」と言っていた。
実際には、そんなことはなかったのだけど(嗅がされた)。

(出典)https://www.pakutaso.com/20160142012post-6576.html

頑張っている女性達へ勇気と元気を!
がんばれジブン!おつかれワタシ!なんて言いながら「しなやか」な生き方を目指しているライターのkahoです。
kahoのちょっぴり長いひとり言よんでください。***

私はもともと、「におい」に敏感なほうだ。
「ん? なんか変なにおいしない?」
「ここ、○◯みたいなにおいするー」
友人といても、家族といても、気づくのはたいてい私だった。

だから、そのときももちろん、私が最初に気づいていた。
ある日、向かいに座っている上司が「なんか今日、すごい甘いにおいするね」と言った。
……知っている。
ていうか、今に始まったことじゃない。
2週間前から知っている。
においの根源は、私の隣に座っているからだ。

見た目ギャルだけど気持ちは一般庶民な、入社2年目の20代女子。
彼女が手に塗っているハンドクリームからその甘いにおいは放たれていた。
声を発した上司含め、みんながどう思っていたのかはわからない。
けれど私は、その「におい」が苦手だった。

「今月から、人生で初めてハンドクリームを塗ることにしました」というわけではもちろんない。
入社当時、いや、前の会社……いや、学生時代とかもっと昔からハンドクリームを塗っていたと思う。別に悪いとは言わない。私も、乾燥対策に塗ることはあるし、ハンドクリームを塗ることも、ハンドクリーム自体も否定する気は全くない。

けれど、彼女が私の横に座るようになってから塗り始めたハンドクリームのにおいは、キツすぎるのだ。どうしてそのハンドクリームなのか。なぜ、それなのか。

 

私はとりあえず理由を突き止めることにした。
納得できる理由があるのであれば、仕方ないと思えるかもしれない。
とにかく、理由を知りたかった。
ハンドクリームは世の中にたくさんあるのに、どうしてそれなのかということを。

しかし、「そのハンドクリーム、どこの?」と聞くには危険すぎる。
もし彼女自身が少しでも、「ちょっとにおいキツイな」と思っているのであれば、私がこれを聞くと、「申し訳ない」と気まずくさせてしまうかもしれない。それに、自分でもキツイなと思っていたとしても、ものすごい好きなメーカーで使っているとか、大好きな彼氏にもらったものだから1番長くいる会社で使いたいとか。
そういう特別なモノだった場合、こちらも申し訳ないとしか思えなくなってしまう。

 

考えた。
別に彼女との関係が悪いというわけではない。
突っ込んでもへこまないタイプだから、ストレートに言えばいいと言われるのかもしれない。
けれど、もし、上記のような理由があってのことだったとしたら。
それを否定されたとしたら。
私もいい気持ちはしない。

だから考えた。
さりげなく理由を聞けて、かつ、彼女との関係をいつもどおりに保ったままでいられる聞き方を。

結果、1人で聞くのは難しいということに至った。
私は彼女の仕事の面倒を見ていて、忙しいときに質問攻めにあってちょっとイラついた顔をしてしまったことがある。もちろん質問には答えるし、余裕があるときは細かく丁寧に笑いを交えてアドバイスをするようにしている。
けれど、どうしても忙しいときは、「それくらいはもうわかるじゃーん」とか「ちょっと考えればわかるじゃーん」と思い、イラっとしてしまうことは、ある。だから私が聞くと、高圧的になってしまうかもしれない。
現に「なんで、たくさんあるハンドクリームの中で、あえてそのにおいなんだよ!」とちょっとイラついている。

そこで、彼女のもう片方の隣に座っている、40代半ばのお姉さん先輩に協力を仰ぐことにした。どうやら先輩はそんなに気にはなっていないらしい。けれど、「私は鼻悪いからまぁそんなに気にならないけど、会社だしねぇ。少しは配慮してもらえたほうがいいのかもしれないね」ということで、協力してもらえることになった。
とはいっても、「なんでそれなの?」とはやっぱり聞けないから、「最近ハンドクリーム変えたんだね〜」というやんわりした話の振り方を先輩がして、横から私が「どこで買ったの〜?」と聞くことにした。ナイスだ!

 

「おばあちゃんからもらったんです。そんなに好きではないので……早く使い切っちゃおうかと思ってて」

よっしゃーーー!!
心の中でガッツポーズをした。
よしよし!
聞かれた側も聞いた側も傷つかず、それでいて彼女もそんなに気に入っている「におい」ではないということがわかった。

で、そのハンドクリームの残量は……。
たっぷりー!! 結構たっぷりーー!! 残っている。
家で少し使ってたとか、家族で兼用しているとかそういうことは一切なく。満杯からのスタートがここだった。なんてことだ。これではあと何ヶ月かかるのか、わからない。
そのときは、「そうなんだ〜。へぇ〜。おばあちゃんやさしいね!」としか言えなかった。
……待つしかない。
いつまでも夜ってことはない。必ず朝はくる。そのときを、待つんだ!

 

それからというもの、彼女はそのハンドクリームを使うペースを上げた。
いいことだ。私の願いは、早くそのハンドクリームを使い切ってもらうことだったのだから。
けど!
もう1日中、そのハンドクリームのにおいで私の鼻は手前から奥までいっぱいだった。パンパンだ。
朝出社して塗り、トイレから戻ってきて塗り、少し業務が落ち着いて塗り……。その繰り返しが会社を出るまで続く。1番困ったのは、食前食後の塗り塗りタイムだ。会社のまわりに食事ができるところが少ないため、持参した弁当で昼ごはんを済ます人が多い。私も彼女もそうだった。12時ぴったりに昼休みのチャイムがなるが、業務の区切りがついてから食事をとることは日常的にある。「もう少しでまとまりそうだ!」というときに、カレーのにおいに混じってハンドクリームのにおいがする。そして、遅れて食事をとった私の横で、すっかり食べ終わった彼女がハンドクリームを塗る。もう、私の鼻は爆発しそうだった。

 

高校時代、なにか話した後に必ずといっていいほど、「ねぇ」とつける国語の先生がいた。
私やクラスメイトはそれを机に正の字で書くのが日課になっていて、「今日何回あった?」とか「あそこ、『ねぇ』来るタイミングだったのに来なかったよね」なんてくだらないことをしていたのだが、まさか社会人になってまでそんなことを考えるなんて思わなかった。
私はハンドクリームのにおいを紛らわすように、彼女が1日何回ハンドクリームを塗るのかをカウントするようになっていた(さすがに正の字は書いていないが)。

……ハンドクリームがなくならない!
残業して帰る時間が遅くなった日には、誰もいないことを確認して、彼女のハンドクリームの残量を確認する。
「あと、何回分だろう?」
「てかもう、これ、どこでつくってるハンドクリームだよ!?」
とチューブの裏面を見て、「うーん知らないなぁ」と思っていた。

それからは彼女の隣に座っても、なるべく彼女寄りにならないように、椅子を反対側に寄せるようになっていた。鼻が痛い、頭がぼーっとする。

仕方ない。
私は最終手段に出ることにした。

 

札幌駅のおしゃれなお店で、ハンドクリームを買った。
彼女にプレゼントするためだ。
高すぎず、でも安すぎず。質のいいハンドクリームだ。
しかし、「これ、プレゼント!」といきなり渡しては、怪しまれる。
私はその買ったばかりのハンドクリームと、昔から家にあったハンドクリームを会社の引き出しに忍ばせ、ある時こう言った。
「これ、もしよかったら『もらいもの(ちょっと強調して言った)』なんだけど、私のまだ結構あるから、使ってくれない?」

それは、私好みのにおいがするハンドクリームだった。
本当は今使っているハンドクリームをやめて、こっちをすぐに使ってほしかったけど、そううまくはいかない。それに、彼女のおばあちゃんがかわいそうだ。だから、「すぐ」は諦めた。
けれど、もし、次もキツイにおいのするハンドクリームがやってきたら。
やっと倒したと思ったボスが、最終形態に変身して一撃でやられてしまうように、同じもの、もしくはそれ以上のハンドクリームがやってきたら。そう思うと、「次」を彼女に渡して、そこからしばらく安心できるにおいに包まれて仕事ができたほうがいいと思った。それで、彼女が私好みのハンドクリームを気に入ってくれたら……最高だ。

 

しかし彼女は、私の隣でそのハンドクリームを塗ることはなかった。
プレゼントしてから2週間後、私は部署異動になったのである。


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かほ

Kahoライター

雑誌やWeb媒体で取材・撮影・記事作成を10年以上してきました。自分の経験を通して、「細くてもいいから誰かの光になる文章」を書くのが夢。 「心がゆるんだ」「よし、がんばろう」「ちょっと笑える」そんな記事をお届けします。
趣味:うさぎさんを愛でて戯れる、おしゃべり上手なバスケ選手を応援する、落語を聴く。

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